我が家では猫2匹と共に過ごしており、DIYで作ったキャットウォークを賃貸に設置しています。
猫も毎日キャットウォークを活用しており、作った甲斐があったと思う日々です。
大活躍のキャットウォークをみなさんのご家庭にもオススメしたく、本記事ではキャットウォークを作る際に気をつけるべき、強度計算についてご紹介しています。
また、キャットウォーク以外の様々なDIYにも応用が可能です。
できる限り要点を絞って簡単に説明をしているので、キャットウォークの設計にお悩みの方など、ぜひご参考になさって下さい。
この記事におすすめの方は?
- キャットウォークのDIYを考えている方
- DIYの強度の考え方を知りたい方
目次
キャットウォークについて
今回ご紹介する強度計算は、下記記事のキャットウォークDIYを前提に解説します。
そのため、構造や作り方が異なるキャットウォークでは、強度計算の考え方が違ってくる可能性があるので、ご注意ください。
未チェックの方は、ぜひ作り方の記事を読んだ後に本文をご覧ください!
強度が必要なキャットウォーク箇所
我が家で作成したキャットウォークで、強度が必要な箇所は主に3点です。
それぞれについて、なぜ強度の考慮が必要なのかご説明します。
キャットウォークの梁
まず、強度が必要な場所が「長手支柱部」と呼んでいるキャットウォークの梁です。
この部分は特に、強度が必要なイメージが湧きやすいと思います。
どういう時に強度が必要なのか想定されるシチュエーションがこちら。
まずは、猫がキャットウォークを活用している時に、猫の体重によって加わる力です。
これはキャットウォークを作るに当たって、絶対に発生するであろう力です。
その他にも、お子様や友達が誤って支柱にぶら下がったり、ハンガー掛けとして使ったりすると、その分の力が加わってしまいます。
このような力に対して、壊れないように強度を考える必要があります。
ポリカーボネート
このキャットウォークでは、「肉球が丸見え!」をコンセプトにしているため、ポリカーボネートを使っています。
そこで気になるのが、このポリカーボネートの強度です。
この場所については、どういった力が発生しうるでしょうか。
この部分にも、絶対に猫の重みによる力は発生します。
また、人がぶら下がることは普通はないにしても、掃除の際に誤って力をかけてしまうことが想定されます。
こういった時に、ポリカーボネートの部分が割れてしまっては大変です。
この部分についても強度が必要になります。
キャットウォークの梁を支えるねじ部
最初の項目に挙げた、キャットウォークの梁を支えるねじ部にも力が加わります。
このネジ部分が壊れてしまっては、キャットウォーク全体が崩壊してしまいます。
この部分にも、猫の重みや人がぶら下がった時の力に耐えうる強度が必要になります。
「ぶら下がったりしないから大丈夫だよ」という人も、万が一のために余裕を持った設計でDIYをすることが大切です。
もしもの時が発生してケガなどをしないためにも、十分ご注意ください。
それでは、ここから強度計算の考え方と計算フォームをご紹介します。
梁の強度計算
考え方は不要で、計算のみ行いたい方はこちらからスキップください。
梁に対する強度の考え方
梁の強度を考えるにあたって、一番基本的なモデルが下記です。
このモデルに対する強度が十分あれば、通常の使い方でまず壊れることはないと言っていいでしょう。
この梁に荷重P(=力)が加わり、木材が最もたわむのは、中心に力が加わる時です。
このとき、木材は図中の青点線のように変形をします。
この荷重Pがどれくらいまでなら耐えうるかを計算することで、強度の保証ができます。
ちなみに、考えるのは曲げに対する強度です。
実際に強度計算をするにあたり、必要な諸条件はこちら。
ここで、設定値について簡単に説明します。
まずヤング率とは、材料が持つ固有の物性値です。
ヤング率は弾性変形領域(力を除くと元の形状に戻る変形域)での材料の伸びと、加えた力の傾きを表す数値です。
ヤング率は、フックの法則が成立する弾性範囲における同軸方向のひずみと応力の比例定数である。この名称はトマス・ヤングに由来する。縦弾性係数とも呼ばれる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヤング率
また安全率とは、「破壊にいたる力に対して、実際にかかる力を何倍程度の余裕で見ておくか」といった値です。
設計段階で想定していなかった力が加わったり、材料の劣化によって材料そのものが弱くなったりしたときをふまえて、3倍程度以上の余裕を見ておくのが一般的です。
これらの諸条件を使って、下記の等式が成り立つかを確認します。
さて、ここで木材の許容曲げ応力について考えます。
これについて考えるにあたり、「基準強さ」と「許容応力」と呼ばれるものの違いを整理しておきます。
基準強さとはその材料の破損の限界を表す応力で「引張強度」や「降伏強度」などを用います。 許容応力とは、許容できる応力、つまり、使用する際にかけても良い応力の最大値のことです。
https://d-engineer.com/zairiki/anzenritu.html
基準強さは破壊にいたる瞬間の応力で、許容応力は壊れない範囲内の応力!
木材の許容曲げ応力は、建築基準法で示される下記の式によって導出できます。
- 許容曲げ応力(短期)fb = 2Fb / 3
- 許容曲げ応力(長期)fb = 1.1Fb / 3
- ※常時湿潤状態の環境下で使用する場合は、さらに許容応力を低く見る必要があります。
ここで長期の場合では、許容応力 / 基準強さ = 3/1.1 ≒ 2.7の安全率となります。
ちなみに、短期は10分、長期は50年が目安だそうです。計算には長期を使用しましょう。
一般的なDIYで使用する木材は、2×4木材でよく使用される「FPC」になります。
現在、2×材で最も多く使われている樹種は、「SPF(エスピーエフ)」と呼ばれるもの。 これは、スプルース(Spruce、米トウヒ)、パイン(Pine、マツ類)、ファー(Fir、モミ類)などの常緑針葉樹の総称
https://www.komeri.com/contents/howto/html/02070.html
本計算では、FPCの中でも一般的に多い「スプルース」の値を使用して考えます。
計算の考え方と使用する主な値について整理ができたところで、いよいよ計算をしてみましょう!
梁の強度の自動計算フォーム
必要な初期値を半角で入力してください。
こちらの記事で作成したキャットウォークでは、下記の結果となりました。
ここで、1[kgf] ≒ 9.81[N]であることから、計算された荷重P [N]を1/10倍した値の体重の人がぶら下がっても壊れません。
ただし、そのほかの部分の強度も問題ないことが前提になります。
実際には、このような力をかかりきる前にラブリコが倒れてしまうので、無理な力は絶対にかけないでください。
使用荷重
柱に対し片側に荷重がかかる場合は20kgまでとしてください。倒れる恐れがあります。(棚板を使用する場合は棚板の重さも含みます。)使用荷重は実験値です。設置場所や、使用木材によって条件が変わる為、保証するものではありません。
https://labrico.jp/labrico/images/manual_2x4adjuster.pdf
今回使用した計算式の導出方法を知りたいという方は、こちらのサイトをご参考ください。
ポリカーボネートの強度計算
計算のみ行いたい方はこちらからスキップください。
ポリカーボネートに対する強度の考え方
ポリカーボネートは4辺に接触面がありますが、計算が複雑になるため、単純化し短手方向の2辺でのみ支えられているとします。
モデル的には不利な方向で考えることになるため、心配は不要です!
この場合のポリカーボネートの強度モデルは下記となります。
先程の梁のモデルとほぼ同じですが、両端を固定していないため、「両端支持」というモデルになります。※最初にご紹介した梁のモデルは「両端固定」といいます。
この場合も同様に荷重P(=力)が加わり、ポリカーボネートが最もたわむのは、中心に力が加わる時です。
実際に強度計算をするにあたり、必要な諸条件はこちら。
先程と同様に、ポリカーボネートのヤング率と曲げの基準強さを調べます。
下記のサイトを参考に「非強化グレード」のポリカーボネートの値を使用します。
ちなみに、曲げ特性の規格を制定しているJISに下記のような記載がありますが、本計算では理解のしやすさのため、曲げ試験で得た結果を使用します。
この試験方法は,プラスチックの設計パラメータの決定には適切ではないが,材料比較試験及び品質管理のための試験として使用できる。
https://kikakurui.com/k7/K7171-2016-01.html
つづいて、ポリカーボネートの許容曲げ応力を計算します。
木材のときの計算とは異なり、建築基準法のような指標となる計算式がありません。
そこで、一般的なプラスチック製品の強度設計で使われることの多い、安全率3として計算します。
さて、計算の考え方と使用する主な値について整理ができたところで、いよいよ計算をしてみましょう!
ポリカーボネートの強度の自動計算フォーム
必要な初期値を半角で入力してください。
私が作成したキャットウォークでは、下記の計算結果になりました。
たわみ量が非常に大きくなりましたが、これは2辺で支えているモデルを仮定した結果になります。
そのため、実際にはこんなに撓むことはないのでご安心下さい。
また、この不利に考えたモデルでも10[kg]の力が加わっても大丈夫な設計になっています。
梁を支えるねじ部の強度計算
考え方は不要で、計算のみ行いたい方はこちらからスキップください。
ねじ部に対する強度の考え方
梁を支えるネジ部には、せん断力が加わります。
せん断力の一般的な例は、ハサミで紙を切るときに作用する力です。
細かい部分の説明に入る前に、強度計算に必要な諸条件がこちらです。
さて、はじめに考えるのは、梁の自重(梁自体の重さによる力)と外力です。
まず、梁の自重について考えます。今回のキャットウォークでいうと下記の部分です。
この重さを15[kg]として計算します。
ここで、梁を支えるネジ部の強度を考えるにあたり、L字金具1箇所に着目します。
このとき、実際にはこのL字金具が4箇所あるため、着目した箇所には「自重の1/4倍相当」の力が加わることになります。
簡単なイメージがこちらです。
外力に関しては、自動計算フォームで任意に設定することとします。
私の計算では、ラブリコの耐荷重である20[kg]の外力がかかるとして計算します。
次に、ねじのせん断許容応力について考えます。
ねじには、ねじの強度を表す「強度区分」というものがあります。
詳細の説明は割愛しますが、ねじの強度区分は10段階に分けられており、一般的な小ネジの強度区分は「4.8」に分類されます。
この区分から、ねじの引張強さと降伏力がわかります。
引張強さは、材料を引っ張ってちぎれるまでに加えた最大応力のことです。
降伏応力は、弾性変形域を超えて、塑性変形(=力を除いても元に戻らない領域の変形)を始めるときの応力です。
ねじの強度区分については、下記サイトなどをご参考下さい。
さて、引張強さの値から、計算に使用するせん断許容応力を導出します。
せん断強度が引張強さの60%〜80%であることから、60%として計算します。
通常せん断強度は引張強さの60%〜80%です。
「ねじの機械的性質について」https://www.naniwaneji.co.jp/downloads/products/product_doc_005.pdf
つづいて、安全率αについて考えます。
ここでは「Unwin(アンウィン)の安全率」という鋼などの安全率を決定する経験則をもとに、安全率を「15」とします(衝撃荷重が加わると想定)。
さいごに、ねじの有効断面積Aについて説明します。
ねじの有効断面積とは、ねじ山の部分を考慮した面積になります。これは使用するねじによって規格が決まっています。
ねじには並目ねじと細目ねじがあります。違いはねじ山のピッチ(間隔)で、細目ねじの方がピッチが小さいです。
ねじの呼び径 | 有効断面積 [mm2] |
---|---|
M2 | 2.07 |
M2.6 | 3.73 |
M3 | 5.03 |
M3.5 | 6.78 |
M4 | 8.78 |
M4.5 | 11.3 |
M5 | 14.2 |
M6 | 20.1 |
M8 | 36.6 |
M10 | 58.0 |
これらの値をもとに、直径いくらのねじを何本使用すれば、想定している力に耐えうるかが計算できます。
強度の考え方と使用する主な値について整理ができたところで、いよいよ計算をしてみましょう!
ねじ部の強度の自動計算フォーム
必要な初期値を半角で入力してください。
私が作成したキャットウォークでは、下記の計算結果になりました。
この結果は、着目した1箇所分の結果であることにご注意ください。
必要な本数が小数点まで計算されていますが、この値は小数点繰上げで考えてください。
キャットウォークの強度のまとめ
いかがでしたでしょうか。
「キャットウォークをDIYしたいけれど不安」という方も、強度計算をしていれば安心して自作することができます。
今回は私が作ったキャットウォークのモデルを前提に計算をしましたが、計算の中身を理解すると様々な用途で自動計算フォームをご利用いただけます。
また、モデルが全く異なる場合でも、基本的には以下のステップで強度を考えればOKです。
- どこに力が加わるを考える
- 簡単なモデルに落とし込む
- どんな力が加わるかを考える(曲げ、引張、圧縮、せん断など)
- 材料の基準強さを調べる
- 安全率をもとに許容応力を計算する
- 想定した力の時に加わる応力と、許容応力を比較する
- 得られた結果をもとに、材料や形状を検討する
「DIYをやってみたいけど壊れないか心配」という方も、本記事を読んでDIYに対する不安が解消されれば嬉しいです。
本ブログではキャットウォークの他にも、様々なDIYをご紹介しているので、ぜひそちらもご覧ください!
最後までご覧いただき、ありがとうございました!